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更新日:2021年4月1日

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自然探訪2021年4月 田んぼにスギを植えたら土壌はどうなる?
 ~目で見て確かめよう!森林が土壌を育むしくみ~

棚田(たなだ)は日本の中山間地域を代表する風景の一つです。山間地の斜面の等高線に沿っていろいろな形状の水田が集まっていて、とても美しい景観を作り出しています。

写真1に、高知県土佐郡土佐町の棚田の風景をお見せしています。今でも多くの棚田で稲作が続けられていますが、40~50年ほど前に行われた減反政策により、当時、一部の棚田でスギなどが植えられました。棚田に植えられたスギは、現在、立派に育っています(写真2)。成長は周辺のスギ人工林と比べても大差ありません。

ところで、稲作をやめて、そこにスギを植えたらどうなるでしょうか?いろいろな変化が起こりそうです。例えば、植えたスギは成長し、枝葉を毎年落とすようになります。枯れた枝葉は地面に貯まりますが、その一方で、それを食べる土壌動物や微生物が増え、枝葉の分解が進んで、それらの一部が土壌に入っていきます。その結果、土壌もしだいに変化していきます。

では、時間がたつと田んぼだった頃の土壌はどれくらい変化するものでしょうか?

これを知るための第一歩として、2017年に、現在も稲作を続けている田んぼの土壌と、稲作をやめてスギを植えてから46年が経過した後の土壌の色を比較してみました。

写真3の上段には、現在の田んぼの土壌断面の写真を並べました。深さ15cmから20cmくらいまで均一に灰色がかった土壌が見られます。おそらく、毎年、この深さまで耕耘されているためでしょう。そして、それより深いところには少し赤味がかった黄色の土壌が見えますね。

下段には、スギを植えてから46年が経過した後の土壌断面の写真を並べました。よく見ると、土壌の深さ15~20cmくらいのところに境界線が残っていて、浅い方は明るい色合いの土壌、深い方は少し赤みがかった黄色の土壌です。このスギ林が、昔、田んぼであったことがはっきりとわかります。

では、土壌の色を比較してみましょう。写真4を見て下さい。シャーレの中身は、土壌を乾かしてから2mmのふるいに通したものです。色が見やすいように霧吹きで少し湿らせてあります。右側が田んぼの土壌、左側が46年生スギ林の土壌、どちらも上から深さごとに3段に並べています(上から0~5cm、5~20cm、20~30cm)。

田んぼの土壌の色は、20cmの深さまで灰色です。一方、46年生スギ林の土壌の色は20cmまでが褐色になっています。しかも、0~5cmの土壌の色の方が5~20cmの色よりも濃く、地表に近い方がより色の変化が大きかったことがわかります。

いかがでしょう。地上部ではスギが成長している間に、普段見ることができない土壌の方でも変化が起きていたことがわかります。おそらく、スギの植林後、表層に近い部分から徐々に褐色に染まっていったと考えられます。今回、この試みにより、田んぼにスギを植えたら、このような感じで土壌の色も変化していくことがわかりました。

ちなみに、この土壌の色の変化をもたらしている物質は、有機物(ゆうきぶつ)と呼ばれる物質です。土壌中の有機物は枯れた植物体や生物の死骸に由来しています。森林土壌では、有機物が絶えず植物から供給され、土壌生物により分解されつづけていますが、分解されつくすのに時間がかかるため、森林土壌には有機物が貯まります。そして、この土壌中の有機物には炭素や植物の成長に欠かせない養分が豊富に含まれています。すなわち、森林土壌が植物を育て、森林土壌に炭素が貯留されるしくみはこの有機物によってもたらされているのです。

 


(立地環境研究領域 酒井 寿夫)

写真1 棚田の風景
写真1 棚田の風景(高知県土佐町)

写真2 棚田に植えられたスギ
写真2 棚田に植えられたスギ

写真3 田んぼの土壌とスギを植えてから46年後の土壌
写真3 田んぼの土壌(上段)とスギを植えてから46年後の土壌(下段)

写真4 土壌の色の比較
写真4 土壌の色の比較

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