今月の自然探訪 > 過去の自然探訪 掲載一覧 > 自然探訪2021年5月 東日本大震災での津波で被災した海岸林の再生

更新日:2021年5月6日

ここから本文です。

自然探訪2021年5月 東日本大震災での津波で被災した海岸林の再生

海岸域に成立する「海岸林」と称される林は、海からの風、砂などから海岸域の建物や農地等を守るはたらきをします(写真1)。また、「白砂青松」と言われる美しい景観を持つことや、人々の生活圏に近いことなどから、海岸林は古くから人々に親しまれてきました。今回は東日本大震災で津波に襲われた海岸林の再生についてのお話です。

2011年3月11日に東北地方太平洋沖で国内観測史上最大級のマグニチュード9.0の規模の地震が発生しました。この地震に伴って発生した津波の規模も非常に大きく、東日本の太平洋沿岸の広い範囲が津波に襲われました。この津波に対して海岸林は、勢いを弱めたり、漂流物を捕捉したりするなど、海岸域の建物や農地等に対する被害を抑える役割を果たした事例が見られました。しかし、その一方で、この津波を受けた樹木が根から転倒したり、幹が折れたりするなどして東日本の太平洋沿岸の海岸林は甚大な被害を受けました。

その後、被害を受けた海岸林の再生が進められてきた中で、根から転倒する被害は根の浅い樹木に多く見られることがわかりました。このことから、根が深く張った津波に強い海岸林を目指して、地下水位が浅く、根の張れる土層が薄い箇所では、盛土によって土層を厚くした上で、樹木を植栽する方法が多く用いられています(写真2、3)。

東日本大震災からの海岸林再生事業のように大きな規模で整備した盛土に樹木を植栽することはこれまでにはほとんどなく、重機の使用に起因する盛土の過度な硬さや排水性の不良等などの、当初は想定していなかった課題も生じています。これらの課題に対して、盛土の耕起やなるべく重機を載せないような盛土の整備など、試行錯誤が重ねられながら海岸林の再生が進められています。

東日本大震災から10年が経過しました。再生が進められた海岸林の樹木はまだそれほど大きくはありませんが、着実に成長しています。機会がありましたら、その様子に注目してみてください。

 

(森林防災研究領域 野口 宏典)

写真1:海と田畑の間に成立する海岸林
写真1:海と田畑の間に成立する海岸林(秋田県潟上市)

写真2:東日本大震災からの再生が進められている海岸林
写真2:東日本大震災からの再生が進められている海岸林(宮城県仙台市)

写真3:盛土の上に植栽された海岸林
写真3:盛土の上に植栽された海岸林

 自然探訪 前の月へ自然探訪 次の月へ

過去の自然探訪掲載一覧はこちら

お問い合わせ

所属課室:企画部広報普及科

〒305-8687 茨城県つくば市松の里1

Email:QandA@ffpri.affrc.go.jp